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東京高等裁判所 昭和54年(行ケ)122号 判決

審決を取消すべき事由の有無について判断する。

1 成立に争いのない甲第二号証(本件明細書)、甲第三号証(昭和四九年一一月一八日付手続補正書)及び甲第五号証(昭和五二年六月一四日付手続補正書)によれば、本件発明の名称は当初「炭化水素分離法」であつたところ、原告は、昭和四九年一一月一八日に発明の名称を「パラキシレンの分離法」と訂正し、さらに、のちの審判の請求とともに、「特許請求の範囲」の記載を請求の原因2(本件発明の要旨)記載のとおり補正したことが認められる。

そこで、「特許請求の範囲」の記載をみるに、そこには「キシレン異性体類及びエチルベンゼンを含むC8芳香族異性体の供給混合物からパラキシレンを分離する方法において、……から選んだゼオライト吸着剤に前記混合物を接触させてパラキシレンを選択的に該吸着剤に吸着させることを特徴とするパラキシレンの分離法」と明記され、かつC8芳香族異性体の供給混合物とは、パラキシレン、オルトキシレン、メタキシレン及びエチルベンゼンの四者を含むものであるから、本件発明は、吸着剤にパラキシレンのみを吸着させて一段階で他の三者から分離することを特徴とすることが明らかである。

2 次に、引用例の開示技術についてであるが、

(一) 成立に争いのない甲第六号証(特公昭三七―五一五五号)によれば、引用例も特別の型の固体吸着剤に選択的に吸着させることによつて芳香族異性体同志を分離する方法に関するものであつて、その例XVIにおいては、パラキシレン、オルトキシレン、メタキシレン、エチルベンゼン、有機性硫黄及び有機性窒素などを含む市販のキシレンカツトを供給原料として使用し、はじめに、供給原料中の有機性窒素及び有機性硫黄をモレキユラーシーブ13Xに吸着させて取りのぞき、次いでこの流出液を例Iにおける如きキシレンの吸着―脱離法を行なつたこと(六頁右欄一行ないし一五行)が認められ、その実験の結果について次の如く記載されている。すなわち、「この流出液について一〇回の実験(各回供給物質は約一〇ml)を行なつた処、10Ⅹモレキユラーシーブベツトにおけるキシレンの選択的吸着に殆ど支障はなかつたが、これに対して13X分子篩による市販キシレン供給物質の予備接触なしでは一〇回の実験(各回供給物質は約一〇ml)の後10X分子篩へのキシレンの選択的吸着を半減する本質的な不活性化が観察された。」(六頁右欄一五行ないし二二行)。

しかし、右の記載からは、パラキシレン、オルトキシレン、メタキシレン及びエチルベンゼンを含む前記流出液のうちからモレキユラーシーブ10Xに何が選択的に吸着されるのか明らかではない。そこで、さらに引用例の例Iの実験内容をみると、例Iは、パラキシレン二八・二%、メタキシレン六七・八%及びオルトキシレン四%を含む供給混合物をモレキユラーシーブ10Xによつて吸着分離する実験(甲第六号証四頁右欄一三行ないし一四行、三一行以下)であり、その結果からみる限りモレキユラーシーブ10Xには、前記供給混合物のうち、メタキシレン及びオルトキシレンが選択的に吸着されたことが認められる。

このように、引用例の例Iにはパラキシレン、メタキシレン、オルトキシレンからメタキシレン及びオルトキシレンを吸着することが開示されているとすると、引用例の実験例XVIにおいて前記四者を含む供給混合物をモレキユラーシーブ10Xで吸着処理した場合にも、メタキシレン及びオルトキシレンが吸着され、パラキシレンは吸着されないものと考えるのが相当であるが、なお例XVIにおける供給混合物中のエチルベンゼンが吸着されるのかどうかも予測できない。

この意味において審決がいうように引用例の例XVIが例Iを引用しているからといつて、例XVIにおいていうキシレンの選択的吸着の具体的内容は、明らかなものということはできない。

(二) 引用例の例XVI及び例Iにおける実験に関する記載から推認しうることは、前叙のとおりモレキユラーシーブ10Xに吸着されるのは、C8芳香族異性体の供給混合物のうちのメタキシレン及びオルトキシレンであつて、パラキシレンはこれに吸着されず、またエチルベンゼンも吸着されるのかどうか明らかでないということであるが、引用例の四頁左欄一三行ないし二六行には、「本発明方法は又他の分離技術、例えば分別結晶、共沸蒸溜、吸収等と組合せることができる。かかる組合せ操作の例としては……。かかる組合せの他の例は(1)蒸溜して三種のキシレンとエチルベンゼンとから成る沸点の近いフラクシヨンを得(2)本発明による吸着法を用いてパラ―キシレンとエチルベンゼンとを他のキシレンから分離し又これを相互に分離し、(3)蒸溜法を用いて残つているメタ―キシレンを残留オルト―キシレンから分離することから成るものである。」との記載があり、ここで「吸着法を用いてパラ―キシレンとエチルベンゼンとを他のキシレンから分離し又これを相互に分離し」というのは、まず、供給混合物のうちから、まずメタキシレンとオルトキシレンを吸着し、次いでさらに、残存の流出液からエチルベンゼンとパラキシレンとを相互に分離することと解されるから、以上を総合すると、結局、引用例における方法は、パラキシレン、オルトキシレン、メタキシレン及びエチルベンゼンの四者を含む供給混合物をモレキユラーシーブに通すことによつてオルトキシレン及びメタキシレンがモレキユラーシーブ10Xに吸着されるが、パラキシレン及びエチルベンゼンは吸着されずに流出するものであつて引用例には、本件発明方法のように、パラキシレン、オルトキシレン、メタキシレン及びエチルベンゼンの四者を含む供給混合物から、特定の吸着剤に前記混合物を接触させて、一段階でパラキシレンのみを吸着させることについては何ら示唆するところがないというべきである。

3 ところで、審決は、本件発明の方法において用いられるナトリウム交換X型ゼオライト及びバリウム交換X型ゼオライトがキシレンの選択的吸着に使用できることが引用例に記載されているから引用例のモレキユラーシーブ10Xの代りに本件発明で特定しているX型ゼオライトを適用することは容易になしうるとしているが、引用例におけるキシレンの選択的吸着とは、モレキユラーシーブ10Xに関する限り、メタキシレン及びオルトキシレンの吸着を意味することは前述のとおりであるから引用例に基づいて本件発明が特定しているX型ゼオライトを本件発明方法に用いる吸着剤として選択することは容易なことということはできない。この点の審決の判断は原告主張のとおり、誤りというべきである。

そうすると、さらに進んで本件発明の効果として原告が主張する点の判断を待つまでもなく、審決が、本件発明を引用例に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとした判断が誤りであることが明らかであり、取消を免れない。

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